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ぽたぽたと点滴の溶液が体に入っていく。
高津はいつになく饒舌で、普段より人間味に溢れていた。
「……君には心配を掛けたけどね。俺は簡単にはくたばらないよ。」
それは誰かの為ではなく、自分自身の為に。
「……それが、自分との約束だから。」
ぽろぽろとあさ美は涙を零し出す。
「――君は『独り』に敏感過ぎる。それが君の良いところなんだけど。」
うなだれるあさ美の髪を撫でる。
「君が淋しがるなら、独り歩き出来るまでは、水割りが美味しくなっても、あの店に通うよ。」
「独り歩き出来るまで?」
「ああ。君が自分の為に生きられるようになるまで。」
心地良さそうに眠っている内田の髪を弄りながら、あさ美が笑う。
「……私がナンバーワンになれたのも、高津さんのあの言葉のおかげよ。」
「そんな事、言ったっけ?」
「言ったわ。」
その様子に、高津は「そうか」と目を細める。
「ねえ、高津さん。」
「……何?」
「自分の為に頑張れるようになっても、まだ淋しい時や哀しい時があるの。」
甘ったるい声で、あさ美が擦り寄ってくる。
「何がお望みだ?」
普通のホステスなら、高級バッグやアクセサリーを強請ってくる雰囲気だが、あさ美はその膝に眠る内田を指差した。
「……内田さんを半分頂戴?」
「半分?」
こくんと頷く。
「昼間の内田さんは高津さんの。……夜は私の。」
高津は「やれやれ」と肩を竦める。
「仕方ないな。」
それを聞いていたママがくすくす笑う。
「内田さんの意思は関係ないの?」
むにゃむにゃ言っている内田は本当に幸せそうに眠っている。
「――寝てるこいつが悪い。」
高津がきっぱりと答えるから、あさ美もママも愉しげに笑った。
「じゃあ、私はそろそろ。」
「……ああ。」
そして、次のテーブルにママが移動するのを見送ると、あさ美は高津の腕に絡み付く。
「何?」
「あのね……、内田さん、持ち帰りしてもいい?」
「――煮るなり、焼くなり、お気に召すままにどうぞ。」
高津の言葉にあさ美は顔を綻ばせる。
「そいつの何を気に入ったんだか……。」
「あら、内田さんって磨けば相当『いい男』になるわよ? ……私、男を見る目だけはあるんだから!」
高津はあさ美の作った水割りを口にする。
その日の酒はいつもに増して美味かった。
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