20

6/24

52人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
 美味しいお酒は人を選ぶことなく無防備にする。  久保も晩酌の付き合いを終えると、「はあ」とため息を零して客間の布団にごろんと横になった。 (……他人(ヨソ)様の家に唐突に訪問して、一番風呂に入って、夕食・晩酌付きで、洗濯までしてもらって、一晩泊まる……。)  普段の久保なら絶対にあり得ない行動のオンパレードが、亜希に会ってからは続いていて、一日なのに一ヶ月分くらい疲れた。  久保はぐったりと布団に横たわると、つい癖で枕の下に手を入れ、顔を枕に埋める。  久保にとっては一番落ち着く寝相なのだが、亜希はそれを見てよく面白がって笑っていたのを思い出す。 「苦しくないの? その寝相。」 「いや、全然。変かな?」 「……だいぶ、変。」 「そうかあ……?」 「そう言えば同じ格好で保健室で寝てたよね。私が宿直室に泊まった日もしてたよ。」 「そうだっけ……? 胃が痛いって倒れこんできた割りには見てるんだな、そんなとこ。仮病だったのか?」 「違うよ! 声を掛けたけど、その寝相だったから聞こえるかどうか心配だったから覚えてたの。」 「静かでよく寝られるぞ?」 「……起こす時には、頬でも引っ張るね。」 「え、そうなるの?!」 「だって、おはようのキスなんかじゃ起きなさそうなんだもの。」 「……頑張るから、そっちで起こして。」  亜希がくすくすと笑っているのが、ありありと目に浮かび、久保は幸せそうな笑顔になった。 「……夜中に一人で笑うとか気色悪いよ?」  亜希のくすくすという笑い声に、久保は我に返ってガバッと起きた。  湯上がりの亜希が部屋に入ってくる。 「何、笑ってたの?」 「……何でもない。」 「何でも無いのに笑ってたら怪しいよ?」 「本当に何でもないんだって。」  そういうと、久保は再び枕に顔を埋める。  その寝相に、亜希は笑うのを止めて訊ねた。 「……久保セン、こんなとこまで水泳するの?」 「水泳?」  半分顔をあげる。  亜希はすぐ近くにしゃがんでいて、額をコツンとぶつけてくる。 「今のクロールの息継ぎの時のフォームと一緒だったよ? その寝方。」  そして、亜希はニコッと笑うと、軽く触れるだけのキスをした。  久保は亜希が離れるのにあわせて、上体だけを起こす。 「お休み、久保セン。」 「ああ……。」  手をひらひらっとさせると亜希は部屋を出ていく。  久保は起き上がったまま、暫く動けずにいた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加