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美味しいお酒は人を選ぶことなく無防備にする。
久保も晩酌の付き合いを終えると、「はあ」とため息を零して客間の布団にごろんと横になった。
(……他人(ヨソ)様の家に唐突に訪問して、一番風呂に入って、夕食・晩酌付きで、洗濯までしてもらって、一晩泊まる……。)
普段の久保なら絶対にあり得ない行動のオンパレードが、亜希に会ってからは続いていて、一日なのに一ヶ月分くらい疲れた。
久保はぐったりと布団に横たわると、つい癖で枕の下に手を入れ、顔を枕に埋める。
久保にとっては一番落ち着く寝相なのだが、亜希はそれを見てよく面白がって笑っていたのを思い出す。
「苦しくないの? その寝相。」
「いや、全然。変かな?」
「……だいぶ、変。」
「そうかあ……?」
「そう言えば同じ格好で保健室で寝てたよね。私が宿直室に泊まった日もしてたよ。」
「そうだっけ……? 胃が痛いって倒れこんできた割りには見てるんだな、そんなとこ。仮病だったのか?」
「違うよ! 声を掛けたけど、その寝相だったから聞こえるかどうか心配だったから覚えてたの。」
「静かでよく寝られるぞ?」
「……起こす時には、頬でも引っ張るね。」
「え、そうなるの?!」
「だって、おはようのキスなんかじゃ起きなさそうなんだもの。」
「……頑張るから、そっちで起こして。」
亜希がくすくすと笑っているのが、ありありと目に浮かび、久保は幸せそうな笑顔になった。
「……夜中に一人で笑うとか気色悪いよ?」
亜希のくすくすという笑い声に、久保は我に返ってガバッと起きた。
湯上がりの亜希が部屋に入ってくる。
「何、笑ってたの?」
「……何でもない。」
「何でも無いのに笑ってたら怪しいよ?」
「本当に何でもないんだって。」
そういうと、久保は再び枕に顔を埋める。
その寝相に、亜希は笑うのを止めて訊ねた。
「……久保セン、こんなとこまで水泳するの?」
「水泳?」
半分顔をあげる。
亜希はすぐ近くにしゃがんでいて、額をコツンとぶつけてくる。
「今のクロールの息継ぎの時のフォームと一緒だったよ? その寝方。」
そして、亜希はニコッと笑うと、軽く触れるだけのキスをした。
久保は亜希が離れるのにあわせて、上体だけを起こす。
「お休み、久保セン。」
「ああ……。」
手をひらひらっとさせると亜希は部屋を出ていく。
久保は起き上がったまま、暫く動けずにいた。
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