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「――鞍馬が邪魔なら追い出すぞ?」
「はい? せっかく来たのに、俺、追い出されちゃうの?」
「……うるさい。」
きゃんきゃん喚く鞍馬の様子に、高津は煩わしそうに眉をひそめた。
「ちょっと、俺の扱い、ちょっと来ない間に酷くないッ?! 内田くんは、追い出さないよなあ?!」
しかし、部外者である鞍馬に、亜希の話をするのは気が引けた。
内田は心底困った表情になり、ぼそりと高津に訊ねた。
「進藤の件、なんですけど……。」
「今、良いですか?」
「――何? 何の話?」
鞍馬が興味津々で身を乗り出す。
しかし、高津は冷ややかにそれを制した。
「……鞍馬、ニ択だ。黙って酒を飲むか、今すぐ出ていくか、どちらにする?」
その空気がいつになく、ピリついている。
鞍馬はソファーの背もたれへと身を沈めた。
こう言う時の高津は、下手に突っ掛かると、逆鱗に触れかねない。
「どっちだ?」
鞍馬は渋々といった体で、「前者にします」と言って黙り込む。
高津は内田に話の続きを促した。
「今日、進藤に会いました……。」
「――そうか。具合はどうだ?」
その言葉に内田は口を閉ざす。
「まだ……、情緒不安定みたいで……。」
会うのは控えて貰おうと口を濁す。
「でも、『お礼がしたい』とも言ってたわよ?」
声のした方を見ると、あさ美がカンパリオレンジを口にしながら笑っている。
「――お礼?」
「そう、お花の。」
「ああ、あれな……。」
鞍馬は色々言いたそうな視線を高津に投げたが、高津は取り合わない。
「――ただ、覚えてなかったら、高津さんを傷付けるって心配してたようだけど。」
「そんな事……。」
「そういうと思ったから、『会いたがってる』って言っておいたけど。」
あさ美の返答に、高津は優しい笑みを浮かべる。
――柔らかな笑み。
鞍馬はとうとう我慢が出来なくなった。
「……なあ、進藤って誰だ? 男? 女?」
「――鞍馬。」
「俺だけ仲間外れはないだろう?」
「黙って、酒を呑んでろ。」
その言葉に鞍馬は不機嫌さを露わにする。
笑顔が消えた。
「また、いつもの秘密主義かよ。」
――険悪な雰囲気。
あさ美は美味しそうにカシスオレンジを口にしていたが、その横で内田はハラハラと二人を見つめていた。
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