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私は、右腕を失った男性のためにピアノの小品を書くことにした。
短い序奏の後に奏でられるテーマは簡潔で、十分に人の心を浸潤できるものだと思う。
点在する湖沼のほとり。そこに根をおろす植物の吹き芽にも似た馥郁たるメロディだった。
命の輝きを譜面に塗り重ねたような音たち。
曲を献呈する相手は、私にとって永遠の友であり、かつ英雄でもある。
その人の名は、初巳瑠音
◇◇◇
20×8年4月12日
その日私は、久しぶりに優真の熱い体に抱かれていた。
「しばらく見ない間に、胸おおきくなったな」
優真はそう言うと、私の体を触った。
まるで、一つ一つの部位を確かめるように弄ぶ彼。
私は人の体調や心情が、快感と密接に関連していることを改めて実感した。
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