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 タツオは塹壕(さんごう)の後方になびく白い鷲(わし)の旗を見つめた。風が吹くはずのない3Dシミュレータのなかで、強い海風に吹き飛ばされそうになびいている。  3組1班の班旗の絵柄はクニの提案で決定している。白鷲はエウロペ連合進駐官の血を引くジョージの白い肌と明るい茶色の目のイメージなのだろう。この班旗を奪うか、敵を降伏させるか、戦闘不能にするかで勝敗は決定する。  ジョージがシミュレータを操作しながらいった。 「いってくる。カザンにひと泡をふかせてやるよ」  タツオはいった。 「兵は死なせないでくれ」 「わかってる。菱川(ひしかわ)班、突撃!」  ジョージが戦闘シュミレータで選んだ兵士はみな小柄(こがら)で細く、スピードがあった。発煙筒と援護射撃が始まると、塹壕を飛びだし波打ち際(ぎわ)に駆(か)けていく。ひざの深さまで海水に浸(つ)かると、そのまま倒れこんだ。タツオは全員撃たれたのかと思い、心臓を冷たい手でつかまれた気になった。3Dホログラムの模擬戦とはいえ、自分の分隊の兵士が撃たれるのは、実に嫌なものだ。
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