過剰正義はおっぱいについて問う

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　直前までは、本当に平和な教室の風景だった。

　授業を二つ終えての休み時間は昨日観たテレビやネットの話題も落ち着いて少し静かで、昼休みを待つ倦怠が漂う時間。それが突然破られた。

「お前はそのおっぱいの貧しさについて迫害を受けているのか？」

「死ね」

　廊下側の窓から乗り出してきた顔面に正拳を叩き込む。着席した状態からとっさに足を開いて強引に放った割りに手応えは重く返ったにも関わらず、廊下で派手に転がる音が止まるとすぐ首は同じ位置に戻ってきた。

「繰り返すぞ。ナオ、お前はそのおっぱいが――」

「指を差すな指を」

　人差し指を握って逆へ曲げると悲鳴を上げたが、さっきの顔への打撃に関してはまるでけろりとしている。とことん丈夫で呆れる。

　洞貫（ほらぬき）幸平（コーヘー）。今更改めて観察するまでも無い付き合いの長さは家が隣なだけあって今春この中学に入学した今から振り返って記憶の果てまでこびりついて離れない。

「ねえコーヘー、どういうつもりか知らないけど――」

　指を離して一旦解放し、大きく振り上げた足を落として首を膝裏で押さえ机に貼り付けにする。断頭台の格好だ。罪人は腰が窓枠に引っかかって浮いた状態なので抵抗できないけれど、暴れられたら見えそうなのでスカートに手は添える。

「まあ、オレも一応話だけは聞いてやるぜ」

「これが話を聞く姿勢だというのか」

「嫌なら叩き出すけど」

　早く平和を取り戻したい私としてはそれでも構わない。さっきまで一緒に話していた友達は遠巻きにこっちの様子を見守っていて、それに足して教室全体から様子を窺っている気配を感じた。

　そもそも話題が話題だ。男子はどうか知らないけれど、少なくとも私を含め女子は輪に加わりたがるはずがない。

「そんな……俺はただ、おっぱいが小さいという理由で責められたり不利を強いられることが現実にあるかどうかを確かめたいだけなんだ。それなのにナオも同じか。他の連中と同じように口を噤むのか」

　わけのわからないことをのたまいながら力んでいる。見るからに真剣そのもので、残念なことに実際真剣なので始末に負えない。

「ねえコーヘー、それ他の子にも聞いたんじゃないの？」