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「違う! 誰彼構わず聞くものか。きちんとおっぱいを見定めた。適切におっぱいの小さな女子だけを選び、根掘り葉掘り話を聞きだそうとした。なのにだ! 誰も、何一つ答えようとはしなかった。なぜだ!」  真剣な、熱の篭った力説はまるでこちらを非難するかのような調子を孕んで刺々しい。 「そんなの、明らかに侮辱で挑発行為だから当たり前だぜ。それで、何があってそんなこと始めたの?」  近寄り難くはあるものの、一応話は聞くと約束した。そうしなければ自然には止まらないという体験上の学習成果もある。 「俺は恥じる。今日この日までまったく知らなかった。この世におっぱいの大きさで思い悩み苦しむ存在があることを、そういう悲しみがこの世に満ちていることをだ!」  たまらず、という風に勢いを増して話し始める。駆け込んで来た時点で薄々感じ取ってはいたけれど、どうやらまた〝病気〟が始まったらしかった。  コーヘーは昔から差別や不平等を嫌う。これまでにも何度か発症したが、その度大騒ぎになった。 「教室で雑誌を読んでいる連中がいたんだ。そいつらはアイドルの水着グラビアを見て、最初は誰が好みだとかそういうような、極ありふれた平和的な話をしてたんだ。ところがだ! 会話の内容はおっぱいに移った。その人、個人の人格は排除したおっぱいの大きさ! それのみにおいて語りだしたのだ。果てはCカップ以下は人間じゃないとまで言いだした」  まあ、稀にある光景だと思う。 「なあナオ、そんなに辛かったのならどうして俺に相談しなかったんだ?」 「あ、もうオレ思い悩んでいるグループに入れられてるんだ? とりあえずその同情顔やめてくんない?」 「人に非ずとまで言われているのに、お前はどうしてそう気丈にしていられるんだ。底無しの精神力には驚嘆するが、耐えられることがそのまま耐える義務になるわけではないぞ」
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