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「一応言っとくけど、そんなことないから。その連中も場のノリでそんなこと言ってるだけのことだぜ」
「いや、俺の前では隠さなくていいんだ。傷つくことに怯えなくっていいんだ」
まるで聞く耳を持たれなかった。腹の立つことに妙に優しい目で語りかけてくる。どうやら既に虐げられ卑屈になっている社会の被害者として認識されているようで、自分で否定しても無駄らしい。
「無理をするな、水臭いじゃないか。俺たちは幼馴染だろう?」
「幼馴染って言ったって、校区が同じこの辺のみんなは全員そうで私たち二人が特別ってわけじゃないぜ? 第一、コーヘーが言ってるのはドラマとかに出てくる部屋が向かい合ってて屋根伝いに移動できるようなそういうのでしょ。うちはほら、間に畑があるから」
〝隣〟とは言っても我が山切(やまぎり)家とコーヘーの洞貫家は並び建っているわけではなく、間では祖父が趣味で世話をしている畑が間隔を広げている。道楽の農業ではあるものの年季が入っているだけに出来はそれなりで、枝豆やスイカと言った目先の欲に忠実な作物が季節毎に実る。週末にはまた収穫を手伝わされることだろう。
「その話はもう忘れること。わかった?」
「何故だ? 目を逸らしても問題は在り続ける、涙は流れ続ける。それを隠す連中までがのうのうとだ! こんなことを誰が許す? 俺は我慢ならん。絶対に壊してやる。ナオも泣く立場にいるのなら、そうやって隠蔽することで奴らに加担せず協力するんだ」
既に見えない敵の完成度がかなりのところまで来てしまっている。
「奴らって誰奴らって。あと勝手にオレのことカテゴリ分けしないでくんない?」
「違うと主張するのか? なあナオ、お前は自らのおっぱいについて少しも、そのおっぱいほどに僅かな悩みすら抱えていないと胸を張って言えるのか?」
「それは――」
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