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 全員の胸の膨らみが小さいことに気が付いてこの場を逃げ出そうと方向転換したが、既に出入り口は丸く囲まれていた。それを材料にもうひとつ知る。 「この統率力――まさか!」  壁となった列から進み出てきたのは案の定、万畳(まんじょう)千爽(チサ)だった。凛々しいまとめ髪は足が進む度さらさらと揺れ、細い顔立ちに並んだ切れ長の眼がじっと無感情に私を見る。 「ほんとになんなのよアイツ!」 「早くあんなことやめさせてよね!」  場が動くと急に壁が騒ぎ始めた。憤怒や悲痛、そこにはいろんな感情が混ざっている。動転から少し冷め落ち着いて見回してみると、壁になっている女子たちの表情はそれぞれバラバラだった。怒りで私を睨みつけている女子もいれば泣き顔で俯いている女子もいる。ただしどれも一様にこちらを責める意思を感じ取れる。  千爽がすっと片手を挙げるとその声が静まった。本来自己主張が強いわけでもない彼女が進んで前に出るのは身長順に並ぶ時くらいだが、他人がこうして従属する理由はそれに足る信頼があるからだ。  この集団の代表として表れたのだから、また頼まれごとがあって解決に乗り出してきたということだろう。千爽の顔を見てぱっとそう思った。 「え~と……何の用?」  この時点で見当はついていたが、敢えてしらばっくれてみた。 「用も何も――」  とぼけた態度が着火してしまったか、眉を吊り上げた千爽に鼻先へ指を突きつけられ、つい腰が引ける。しかし浴びせられるはずだった言葉は発する前に教室の外から聞こえた声に遮られた。 「おっぱいに平等を! 誰も傷つくことのないおっぱい社会を獲得する為に立ち上がれ虐げられる者たちよ!」
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