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廊下を大騒ぎしながら走り去っていったのはコーヘーだ。休み時間に問答した時点で予想できていたその行動でそのまま、「こうはなりませんように」と恐れていた悪夢がそのまま現実になっている。
「あれはどういうことよ!」
表の騒ぎを聞いてより顔を赤くした千爽がプリントを突き出した。受け取るとそれは「あなたのおっぱいについて問う」という表題で、内容はアンケートになっていた。最初の質問は私がコーヘーから受けたものと一致している。
「『あなたはおっぱいの大きさで他人から差別されたり不利な目に遭ったことがありますか?』って、うわあ、ひどい」
これ自体が大々的なセクハラだ。
「洞貫くんがこれを配っていたわ。『万畳さんには特に』とか言って私にだけ三枚も! 『備考に裏の白紙も使っていいから』って私がどんだけ溜め込んでると思ってんのあの男! ムキー!」
そう言っていきり立つ千爽はプリントを両手に持ち交互に突き上げるながら小さく飛び跳ねているが、その胸元は揺れるどころか一切の存在を感じさせていない。横から観察してもまるで主張しない控えめさでは無理もなかった。
千爽は誰かに頼まれてここにいるわけだろうけれども、依頼を受けて代表するまでもなくこの集団を代表する資格が彼女にはある。代表ではあっても代弁にはならない生の声だ。
居たたまれなくなって目を逸らせば周りの女子たちも同じプリントを持ってこちらへ見せ付けていた。被害は既に学校中に広まっていると考えてよさそうだ。
「えぇ? だってあいつ、こんなプリントどこから? 今日あいつのクラスってパソコンの授業あったっけ……。あ、これ手書きだ! うわ、手書きで何枚用意したの、怖っ!」
授業中必死にこの文書を大量生産するコーヘーを思い浮かべると眩暈がした。
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