『赤い胸』5

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 裕子の口からは質問ばかりが出た。 目の前に雅文がいるというのに、雅文がそこにいないと感じてならなかったからだ。 話しかけても頷くばかりの彼は、本当に雅文なのかという思いまでしてならなかった。 と、雅文の口が薄く動くのが見えた。 「聞こえない」  はっきりと言って欲しい、と裕子はぴしゃりと指摘する。 雅文は一度咳払いをし、もう一度話し始めた。 今度こそちゃんとしたものが聞こえればいい、と裕子は期待する。 「全部、自分の弱さ、です。言うべきだった、早く言わなきゃ、いけなかった」 「あなたは私に言う前にブログに書いてる。みんなに言ってるじゃない。順番、違うじゃない。なんで? そういうのってちゃんとするべきなんじゃないの? 私が聞きたいのってそこだよ。なんで、私がいなかったの?」  まただんまりが現れた。 その通りだから雅文は反論出来ないのだろう。 「ブログ読んだ時ね、驚いたの。ショックで固まったのよ。でもあなたは幸せなの。ねぇ……幸せ?」  幸せ、なんて余計な事を聞いてしまった、と裕子は後悔した。 雅文を見たくなくて視線を反らす。 雅文の視線は感じるが、変わらず黙ったままだ。 見ている事しか出来ないようである。 裕子はまた煙草に火を点け、煙を作る。 薄くすぐ消える壁でも、一瞬でも欲しかったからだ。 そして、言った。 喋れない雅文のために。 「安心して。私はあなたを好きじゃない」
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