『赤い胸』5

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 淡々と言って、伝えた。 もう、雅文の事は好きではない。 あの日から、あの後から、今も、裕子に雅文への好きはなくなっていた。 「私の気持ちなんかわからないで、いい。あなたの、不誠実さにだけ気づいてくれれば」  それからもう一枚、裕子はまた紙を出した。 雅文のそれを見せるとすぐに裏返される。 それは、ラブホテルで撮ったあの写メのコピーだった。 驚く雅文は滑稽で、裕子は満足する。 「園田真由美さんがいるのに、あなたは簡単に私と寝た。どうせ言わないんでしょう? 私達がまだ別れていない事も、セックスした事も」  雅文は止めてくれ、と言わんばかりに肩で息をし出す。 無様ね、と裕子は一瞥した。 「言い訳も理由もいらない。ねぇ、顔を上げて。私を、見ろ」  つい命令口調になってしまった裕子の声が大きかった。 隣のカップルがこちらを見ていようとも関係ない。 聞き耳を立てられていても構わない。 面白い見物になってもいい、と裕子は余裕で微笑みを浮かべた。 「……申し訳ない」  雅文の謝罪の言葉が聞こえた。 だが裕子には、ただの言葉に過ぎなかった。 今更すぎて、遅すぎる。 何の意味も、なかった。 しかも雅文は泣いているのか、テーブルに顔がつきそうなほど俯き、震えていた。 眉間を指で摘み必死に耐えている。 泣きたいのはこっちだよ、なんで泣けるの、と裕子は雅文を睨んだ。 「なんで今言うの? 私が気づかなかったら、言わなかったらどうなって……」
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