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淡々と言って、伝えた。
もう、雅文の事は好きではない。
あの日から、あの後から、今も、裕子に雅文への好きはなくなっていた。
「私の気持ちなんかわからないで、いい。あなたの、不誠実さにだけ気づいてくれれば」
それからもう一枚、裕子はまた紙を出した。
雅文のそれを見せるとすぐに裏返される。
それは、ラブホテルで撮ったあの写メのコピーだった。
驚く雅文は滑稽で、裕子は満足する。
「園田真由美さんがいるのに、あなたは簡単に私と寝た。どうせ言わないんでしょう? 私達がまだ別れていない事も、セックスした事も」
雅文は止めてくれ、と言わんばかりに肩で息をし出す。
無様ね、と裕子は一瞥した。
「言い訳も理由もいらない。ねぇ、顔を上げて。私を、見ろ」
つい命令口調になってしまった裕子の声が大きかった。
隣のカップルがこちらを見ていようとも関係ない。
聞き耳を立てられていても構わない。
面白い見物になってもいい、と裕子は余裕で微笑みを浮かべた。
「……申し訳ない」
雅文の謝罪の言葉が聞こえた。
だが裕子には、ただの言葉に過ぎなかった。
今更すぎて、遅すぎる。
何の意味も、なかった。
しかも雅文は泣いているのか、テーブルに顔がつきそうなほど俯き、震えていた。
眉間を指で摘み必死に耐えている。
泣きたいのはこっちだよ、なんで泣けるの、と裕子は雅文を睨んだ。
「なんで今言うの? 私が気づかなかったら、言わなかったらどうなって……」
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