『赤い胸』5

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 もう、裕子が何を言っても、何の意味もなかった。 それは最初からわかっていた事だった。 答えも返ってこない。 何か変わるわけでもない。 ただ今の裕子は邪魔をしているだけだった。 本気で好きだった、愛していた男だった。 だから、情に邪魔されながらも耐えて、必死になっただけだ。 別れたくないなんて、絶対に言わない。 絶対に、雅文の前でなんか、泣いてやるものか。 そう思っていたのも、危うい。 緩む涙腺と裕子の意地は、もう終わりを告げていた。 「私の事、忘れないでください」  雅文にも、もう終わりだというのがわかっていた。 縦に首を振り、裕子の願いを聞き届ける。 「絶対に忘れないで。幸せになって、ください」  強がりの祝福は皮肉だ。 本当はそんな事思ってもいない。 だが雅文はこう言った。 「ありがとう」  そう、言いやがった。 「いらないよ、そんなの」  よく言えたもんだな、と裕子は鼻で笑ってやる。 好きだった男は、馬鹿だったと知った。 「園田真由美さんにも祝福してくれた人にも、家族にもこの事を隠しながら生きてね。私も、絶対に忘れない。忘れてなんか、やらない」  酷い事を言っていると裕子自身も思う。 だがこのくらいはさせて欲しかった。 警告は一生、雅文には裕子の痛みを背負えという事だ。 すぐに忘れるかもしれないが、雅文を信じてみようと裕子は言ったのだ。 そんな雅文も、背筋を伸ばして、わかった、と観念からか、誓いを口にしてくれた。  これで、終わり?
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