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もう、裕子が何を言っても、何の意味もなかった。
それは最初からわかっていた事だった。
答えも返ってこない。
何か変わるわけでもない。
ただ今の裕子は邪魔をしているだけだった。
本気で好きだった、愛していた男だった。
だから、情に邪魔されながらも耐えて、必死になっただけだ。
別れたくないなんて、絶対に言わない。
絶対に、雅文の前でなんか、泣いてやるものか。
そう思っていたのも、危うい。
緩む涙腺と裕子の意地は、もう終わりを告げていた。
「私の事、忘れないでください」
雅文にも、もう終わりだというのがわかっていた。
縦に首を振り、裕子の願いを聞き届ける。
「絶対に忘れないで。幸せになって、ください」
強がりの祝福は皮肉だ。
本当はそんな事思ってもいない。
だが雅文はこう言った。
「ありがとう」
そう、言いやがった。
「いらないよ、そんなの」
よく言えたもんだな、と裕子は鼻で笑ってやる。
好きだった男は、馬鹿だったと知った。
「園田真由美さんにも祝福してくれた人にも、家族にもこの事を隠しながら生きてね。私も、絶対に忘れない。忘れてなんか、やらない」
酷い事を言っていると裕子自身も思う。
だがこのくらいはさせて欲しかった。
警告は一生、雅文には裕子の痛みを背負えという事だ。
すぐに忘れるかもしれないが、雅文を信じてみようと裕子は言ったのだ。
そんな雅文も、背筋を伸ばして、わかった、と観念からか、誓いを口にしてくれた。
これで、終わり?
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