『赤い胸』5

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 そう裕子の中で疑問が残った。 いや、すでに終わっている。 言う事は何も、残っていない。 「……ふふっ、楽しかったよ。本当に。でもさ、最後に殴らせてくれる? それとも、断る?」  雅文は首を振りながら、店の外でなら、と言った。 裕子は煙草を潰し席を立つ。 最後のお願いがこんな事か、と裕子は言う通りにしてあげた。  店を出ると夜は更に更けていた。 気づけば二時間も時が過ぎている。 そんなに話をしていたんだ、と裕子は店の入り口のそばで雅文と対峙した。 「幸せに。いい男でいてね」  微笑みながらそう言った裕子は、雅文が声を出す前に、答えを聞く前に、思いっきりその頬に平手打ちをした。 そのまま踵を返した裕子は歩き出す。 さよならは言わない。 言ってあげなかった。 手のひらがじんじんと鳴いている。 愛していた男の最後の感触は、熱く、とても、痛かった。
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