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早歩きでファミリーレストランから離れた裕子は家路へと急いでいた。
と、後ろからの靴音に、そうだった、と振り向く。
すっかり龍二を忘れていたのである。
案の定、その靴音の正体は龍二で、止まった裕子のそばへ微笑みながら歩いてきていた。
「すっげぇビンタ。よろめいてたよ」
「そう」
右隣に龍二が並び、裕子はゆっくりと歩き出す。
「頑張ったね」
重低音の龍二の声は優しい。
「あれでよかったのか、私にはわからない。正解って、どれ?」
「俺にもわからない」
本気で人を好きになった事がない龍二には、本気の別れというものも経験した事がないのだろう、と裕子は頷いた。
裕子も別れの言葉は言わなかった。
何も答えずに、ただ、そのままそうなるしかないという方向に進んだだけであった。
「こうなるって、どっかでわかってた。復讐なんて言って結局は別れるだけ。何もかも暴露しちゃうとか、そういう度胸もなかった。間違ってたかな、私」
「間違っててもいいじゃん。ちゃんとケリをつけた裕子さんはかっこいいよ。それに、すごく綺麗だ」
龍二はそう言って、裕子の手を握った。
まだ少しじんじんと痛む裕子の手のひらに龍二の温もりが伝わっていく。
伝わると同時に、もう、駄目だ、と裕子は手を握り返して龍二を見つめた。
手がより熱くなり汗ばんでいくのがわかる。
喉がとても乾いてきた。
裕子の視界は徐々に歪む。
そして、それを言ってしまう緊張から身体も震えだしていた。
「私を、抱いてくれる?」
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