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いつの間にか眠ってしまっていた裕子は重い身体を起こした。
身体は軋み、泣きじゃくった目は腫れている。
「起きた?」
突然聞こえた声に、裕子は体を布団で隠しながら声の方を見る。
「龍二」
「うん」
煙草を吸っていた彼はガラステーブルのそばに立っていた。
その後ろ姿はすでに服を着ている。
「……ああ、そっか」
「うん」
裕子は裸のままベッドから出て、その脇に立った。
龍二はいつもの笑顔で振り返る。
「俺、天職だわ。この仕事」
裕子は笑わない。
だが、同意する。
あのキャッチフレーズに嘘はなかった。
慰めて、癒してくれた。
そして龍二は間違いなく、男だった。
男、だった。
ひと時でも愛を作る、愛をくれる人だった。
「さよなら」
裕子の一言に、龍二は何も言わずに玄関へと向かった。
靴を履く音、擦れる音がする。
がちゃん、と玄関の扉が閉まる音が、した。
龍二は二度と、この部屋に来る事はないだろう。
裕子も二度と呼ぶ事はない。
二人の、そういう関係が今、終わったのだった。
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