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初夏
風呂上がり、缶ビール片手にベランダに出て夜空を仰ぐ、肌に感じはしないが何処からか聴こえる南国チックな風鈴の音が心地を擽る。
…故郷を離れてもう何年になるだろう。
そんな事を考えてしまうのは、母親から留守電にメッセージが残されていたからだ、今年は帰って来るのかと。
でも答えは毎年同じ、帰るつもりは無い。
十七まで生まれ育った故郷だが、愛郷心など微塵も無ければ会いたい人も特にいない、それは母親も含めてだ。
けれどこうやって故郷に想いを馳せる時、暑い陽射しに手を翳し眼を細める時、エアコンの利いた涼しい部屋でベッドに寝転がっている時、ふと脳裏に浮かぶ人物が一人だけいる。
それはまるでオルゴールの箱を開けた時のように懐かしく蘇る。
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