目眩

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目眩

手にしていたスカートをクローゼットに掛け直し、丈の長いTシャツにジーンズというラフな格好で家を出た、待ち合わせはいつものあの公園だ。 まだ十時前だというのにジリジリと照り付ける陽射しに溜め息、足取りも重い、でも今更キャンセルはできない。 なるべく日陰を選びつつ公園に到着すると、電話ボックスから奈緒が手を振り招いた。 「早いじゃん、いつ着いたの?」 「半くらい。だってさ、家に居るとウルサイんだもん、誰と行くんだ?何時に帰るんだ?って。だから9時ぐらいに出てきた」 「そうなんだ、ならウチに来て時間潰せば良かったのに」 「ホントそうすれば良かった。汗で化粧崩れるし…サイアク。シオリんとこはイイよね、ウルサくないし自由でさ」 手鏡を覗く彼女を横目にバッグからシガレットポーチを取り出しながら、アタシは今朝の光景を思い出していた。 まぁ今朝に限っての光景ではないが、朝起きて自室を出ると既に母親の姿はなく、食卓にはその日の生活費とばかりに数千円が置かれている。 最近会話をしたのはいつだっけか、手料理に至っては年単位で口にした覚えがないほどだ。 そんな捨て置かれた日常を自由だと感じたことは一度もない、寧ろただいまと帰ればおかえりと返ってくる、夕飯時には家族で手料理を囲む、そんな日常を羨ましく思ってきた。 いつだったか彼女にそう話した事がある、けれど彼女はそれでも自由だと、うちも母子家庭だったら良かったのにと羨んだ。 だから以来この手の話はスルーしている、お互い無い物ねだりで解り合える気がしないからだ。 「ねぇ、今日ドコに行くとか言ってた?」 「ううん、聞いてない。てかさ、キヨトの幼なじみってどんな人かな?カッコイイといいね」 苦笑い気の無い返事をしたが本音はやはり気になっていた、容姿じゃなく人柄がだ。 だってよくよく考えてみれば、幼馴染みと言うからにはあの清人と馬が合うという事だ、ならば類は友を呼ぶで同類なんじゃないか? だとしたら浮気をするようなタイプじゃないというのは当てにならない、下手に協力をお願いしようものなら卑しい見返りを求められそうだ。 「ぁ、来たよ♪」 彼女の弾む声に反して不安と緊張が高まるのを感じながら、携帯灰皿に煙草を揉み消しミントガムを口に放り込んだ。 さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。
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