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十六
アタシが住むアパートと友人の奈緒が住む団地とのほぼ中間地点にある、まだまだ空き地だらけの新興住宅地。
その一画にある公園は、定番の遊具にベンチとジュースの自販機と車椅子で入れる公衆電話ボックスまで、今後の発展を見越してか無駄に設備が整っている。
だがやはりまだ発展途上、他の利用者には滅多に出会さない、だから奈緒との待ち合わせは大概ここだ。
なにせ気兼ねなく長居できるし、突然の雨に降られても怪しい人影が近付いて来ても、電話ボックスが避難所にもなるから安心という訳だ。
「ごめんねー、なかなか寝なくてさ」
約束の時間より一時間ほど遅れて来た奈緒を一瞥し、携帯のゲームの画面を閉じてベンチの隣を譲った。
両親が寝静まったのを見計らい家を抜け出してくる彼女は、夜の待ち合わせには大抵遅れて来る。
連絡さえくれればこちらもヤキモキしないで済むのだが、父親に携帯の履歴をチェックされているとかで夜は持ち歩きさえしないからどうしようもない。
母子家庭なウチと違い、両親がいて父親が教師という職業ともなればそんなもんなのかも知れない。
座るなり煙草を吸い出した彼女に合わせ、アタシも煙草に火を点けた。
「どうする?カラオケでも行く?」
彼女はお金が無いと頭を振ると、ベンチの背に凭れ溜め息混じりにぼやいた。
「あーあ、この前みたいなのまたないかな」
彼女の言うこの前みたいなのというのは、最近ここらで出没している自慰行為を手伝ったらお小遣いをくれるという変質者の事で、つい先日その輩に出会した時の事だ。
まぁ当然ながら相手になどしなかった。
と言いたい所だが、その輩が自慰行為を見ているだけで五千円払うと食い下がってきたもんだから、それならイイよと彼女が承諾してしまったんだ。
「あの時は奈緒が勝手にOK出しちゃったから、仕方なく付き合ったけど…アタシは嫌だな、あんな金財布に入れたくないし」
「えー、なんで?見てるだけで5千円だよ?超オイシイじゃん!お金はすぐ使っちゃえばいいんだよ」
そうゆう問題ではない、アタシは小さく溜め息を吐いた。
そう彼女には日頃からよく溜め息を吐かされる、口を開けば愚痴ばかりだし、ナンパにはホイホイ付いて行くし、終いには遊ぶ金欲しさに売りでもしようかなどと軽率な言動を取るからだ。
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