十六

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寄る用があるからと清人は言ったが、そうとは思っていない彼女が文句を言いたげな視線を向けて来た。 「乗ってていいよ。ついでに飲み物買ってくるけど何がいい?」 「えー、ナオも一緒に行く~」 となると一人車で待っている訳にはいかない、とりあえず車を降り、店の外で煙草を吸い終えてから二人の後を追った。 店内に入ると清人がレジで何やら払い込みをしていた、ほら、ちゃんと用があるじゃないか。 こちらに気付いた奈緒がムスッとした表情で近付いて来て、棚の陰へと腕を引っ張った。 「ちょっとシオリ、言っとくけどキヨトはナオが声かけたんだから横取りしないでよね!」 「は?アタシがいつモーションかけたよ?」 彼女は訝しげな視線を向けると、とにかく邪魔しないでよね!と捨て台詞を吐き御手洗いへと姿を消した。 何故そんな事を言われなければいけないのか、釈然としない思いで飲み物を物色していると今度は清人がやって来た。 「ナオちゃんは?」 「トイレ」 「何飲む?奢るよ」 「いい、ジュースぐらい自分で買えるから」 清人の方を見もせずに受け答え、ショーケースの扉に手を掛けたその時だった、不意に背後から抱き竦められた。 「冷たいな~。でもオレ、シオリちゃんの方がタイプなんだよね」 「だからなに?」 「慰めてくれるんだろ?」 「なに真に受けてんの?バカじゃないの?」 身体に周る腕を払い退け蔑んだ視線を向けると、清人はヘイヘイと肩を竦めた。 「まぁいいよ、ナオちゃんならすぐヤらせてくれそうだし」 「サイテー、奈緒に全部話すからね」 清人は特に動じる様子もなく、寧ろお好きにどうぞと言わんばかりの表情を浮かべている。 そんな清人をキッと睨み付けアタシはひとり店外へと出た、とにかくその場に居たくなかったからだ。 それに会話している所を彼女に見られでもしたらまた誤解され兼ねない、そうなったらもう聞く耳持たずだろう。 何をどう話すか一通り考えてから、彼女の姿を探しガラス越しに店内を覗くと、抱き合っている二人の姿が目に入った。 何故だ?何故そうなる?こちらの視線に気付いた清人が一瞬ほくそ笑んだ。 そう悔しいが為て遣られたのだ、アタシが告げ口するより先に彼女を落としてしまえば問題無いのだ、あの場を離れるべきではなかった。
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