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とにかくシャワー。それから、あたしの古い学生ジャージを貸してみる。そして、粗雑なコーヒーを出した。
あたしは他人の世話をやくのは下手だし、好きではない。しかしこの場は特別だ。
「どうしてあたしのところに来た?」
声に出してから思う。まるでもう、信也が来てはいけないような言い回しではないか。
信也と分かったとき、驚きと同時に生まれた感情。そんなもの、みっともなくて晒せるはずもない。
それでも、支えられる側になりたい我が儘なあたしがいる。演じたくない強がりの「美月」との戦い。
「……ごめん」
コーヒーカップを抱えたまま、ただ繰り返す信也。
沈黙が続いた。どうすればいいのか分からない。
あたしは立ったままワンルームの壁に寄りかかり、コーヒーに口をつけた。
上から見た今の信也は無様だ。色落ちした紺のジャージが一層惨めさを増している。床に座って小さくなっているその姿は昨日のあたしと同じだ。
空になったカップを置くために散らかったテーブルに近づく。近くなる背中。
後ろからそっと抱き締めるとか。
有り得ない。
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