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「いや、上手い例えが見つからなくて。巣立ちみたいなさ……」
「信也くんの?それとも美月の?」
「さてね、分からなくなってきた。でも悲しくはないよ」
本心だった。
「だけど淋しい……」
足りない部分を補う由実。正直イラっとして、「うるせえ」と言いたくなった。
だがそう、きっとその通りだ。こうして由実に愚痴を言うことができるだけでもマシなのに、足りない。
「ごめん。帰るわ……」
「あ、うん。気をつけて」
古びたドアを開ける。その音はあたしの空っぽの身体の奥で反響して、痛みすら感じさせた。
連日の秋雨で紅葉はすっかり地に落ちていた。土に汚れた紅葉を踏みしめながら自宅へ向かう。
それから、あたしはずっと一人で物思いに耽っていた。
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