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絶対に見せられないあたしの不様な姿。「美月」を演じている役者がやってはいけないNG。まして社会という大きな舞台では尚更、許されない失敗。
でも、一人で背負うには、今は重いんだ。非力な精神を呪った。
外は雨が降っていた。傘をささずに濡れて帰ろうか。でも、あたしは踏み込めない。
風邪をひくとか、小さな荷物を汚したくないとか。なにより脇役やエキストラの視線が耐えられない。
いつもと同じ。異端を求めて普遍に落ち着く。
ロッカーに置きっ放しだった小さな折りたたみ傘。見慣れた道を帰る。
時には同じ方向に避けてエキストラとぶつかりそうになりイラつくあたし。蹴飛ばしたくなる感情をしまう。
頭が爆発しそうになって身体が震えてきた。もうすぐ辿り着く密閉空間。早く閉じこもりたい。最後の角を曲がって……。
?
一瞬、それがなんだか分からなかった。
大きな雑巾にしか見えないそれは、ずぶ濡れで立ちすくむ信也だった。
信也があたしのアパートの前にいる。
どう接していいものか悩むところだが、とりあえず頭上の雨を絶ってから言ってやった。
「……バカモノ」
「……ごめん」
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