天井の眼

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「あ、そうそう、これ、受け取ってください。引っ越しそばのつもりなんですが」  と、池上は手に持ったカップめんを差し出す。 「何人いらっしゃるんですか?」 「わたしひとりです……」 「あ、じゃ、ひとつ……いや、もうひとつ差し上げましょう。ここで最後ですし」  緑のと赤いのをおしつけると、千雪は反射的に受け取ってしまった。 「お隣どうしですので、仲よくしましょうね」  嘉村羽子はにっこりと笑う。 「あ、はい……こちらこそ……」  しかし千雪はさっきまで恐怖に震えていたせいで、急に明るく振る舞えない。  楽しそうな同棲カップルが帰ってしまうと、千雪はまた一人になった。  つかの間、ストーカーの存在を忘れていた。しかし……忘れていたからといって、もちろん、消えてしまうわけではない。  千雪はその場に頽れて、大きく息を吐いた。  二つのカップめんが床に転がった。
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