38人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、そうそう、これ、受け取ってください。引っ越しそばのつもりなんですが」
と、池上は手に持ったカップめんを差し出す。
「何人いらっしゃるんですか?」
「わたしひとりです……」
「あ、じゃ、ひとつ……いや、もうひとつ差し上げましょう。ここで最後ですし」
緑のと赤いのをおしつけると、千雪は反射的に受け取ってしまった。
「お隣どうしですので、仲よくしましょうね」
嘉村羽子はにっこりと笑う。
「あ、はい……こちらこそ……」
しかし千雪はさっきまで恐怖に震えていたせいで、急に明るく振る舞えない。
楽しそうな同棲カップルが帰ってしまうと、千雪はまた一人になった。
つかの間、ストーカーの存在を忘れていた。しかし……忘れていたからといって、もちろん、消えてしまうわけではない。
千雪はその場に頽れて、大きく息を吐いた。
二つのカップめんが床に転がった。
最初のコメントを投稿しよう!