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千雪の警戒心は、これまで以上に強くなった。
仕事を終えて帰宅するときには、周囲に油断なく視線を走らせて、不審な影がないか確かめるようになった。
その日、緊張感いっぱいで家路を急いでいると、ハンドバッグのスマートフォンが着メロを奏でた。
千雪はスマートフォンを取り出す。画面を見てみると、名前が表示されていない。
誰だろう……?
ものすごく嫌な予感がした。
震える指で、通話ボタンを押した。
「もしもし……」
「やあ、千雪かい?」
千雪の目が見開かれる。
「転勤になったんだってね。ひどい会社だよね、県外の事業部に左遷させるなんて」
聞きたくもない、棘のある声だった。
亀垣剛司……。
スマートフォンに変えたときに新規の番号を取得したのに――。
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