38人が本棚に入れています
本棚に追加
「前にも言ったはずよ。もうわたしとは関わらないで」
「どうしてさ。おれはこんなにもおまえのことを気にかけているのに。出会ったときは、そんなじゃなかったじゃないか」
不覚だった。こんな男だとわかっていたら、心を許そうなどとは思わなかった。
「おれはおまえをあきらめない。聞いてくれ。おれは――」
千雪は通話を切った。これ以上、話したくはなかった。
先日、コンビニの前で見かけたのは、やはり見間違いではなかった。亀垣は、もうこの近くまで来ているのだ。レジデンス茜台を突き止めてしまうのも時間の問題だろう。
千雪の目は泳ぎ、足元がふらついた。精神に大きな打撃を受けて、血圧が上昇した。
急いで帰宅した。尾行られていないか、暗がりのなかに潜んでいるんじゃないかと、恐怖が心を支配した。
501号室のドアを開けて、部屋で明かりも点けず、しばらくリビングのカーペットに倒れこんだ。
最初のコメントを投稿しよう!