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千雪はしかし完全に安心したわけではなかった。
会社に頼み込んで県外の事業所に職場を変更までしてもらった。それでもなお帰宅時には細心の注意を払い、屋外にいる時間は極力減らすよう心掛けた。休日も、必要以上に外へ出ないようにしていた。
けれども、もしあの男が嗅ぎ付けてきたら……。
そう思うと、まだまだ警戒心は解けなかった。
3LDKの、単身者にしては広めの角部屋を選んだのもカモフラージュのためだった。(駅から徒歩十五分、築二十年のため、エレベーターもなく、広さの割に家賃が安かった)まさか、角部屋に一人暮らしはないだろう、と。
一階にある集合ポストに貼った名前もできるだけ小さく書いたし(しかも「チャトー」と片仮名で)、ベランダに洗濯物を干すときも、まさか地上からは見えないとは思いつつも、なるべく体を隠しながら干した。
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