天井の眼

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 管理人は一階、101号室の種田イネという八十歳ぐらいの老婆だった。  こんな人にマンション管理人がつとまるのだろうかと、千雪は眉をよせたが、とにかく玄関横の小窓を通して呼びかけた。  大音量でテレビを見ていた種田は千雪が呼びかけてもなかなか返事をしなかった。  小窓のガラスを叩いたり、何度も呼びかけてやっと気づいて小窓に来てくれたが、ひどく耳が遠いようで、何回も同じことを大きな声で話さなければならなかった。  けれどもなんとか通じていっしょに501号室に入ってもらった。  しかし天井を見ると、雨漏りがするわけでもなく、 「こんなぐらいじゃ、修繕できないねぇ」  と、意外とマトモなことを言って、帰っていった。  たしかに管理人の言うとおりなのである。
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