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……準備を済ませて、靴を履いて。外に出る。
「…行ってきまーす。」
……歩き出した僕の耳に、慌てて駆け寄ってくる足音が聞こえて振り返った。
「…っ、由宇ーっ!!」
「木崎?」
…駆け寄って、肩で息を繰り返す幼馴染みは。涙目になりながら、此方を見上げた。
「…酷いよーっつ!!先に行こうとするなんて。」
「だって、男友達と毎日仲良く手をつないで登校って……。それに、木崎は朝練はいいの?僕に合わせなくてもいいのに。」
「お前の事は、おばさんに頼まれてんのっ!!由宇は可愛いんだからっ、その。色々危ないだろ…?」
"危ないって"、女の子じゃあるまいし………。
「……それに。最近、この辺りに不良がうろついてるみたいだし…。」
「え、不良?」
「…そう。金髪に紅い瞳の…。」
………あの人だ。
一度だけ、病院で見た後ろ姿。夢の中の人と重なって追いかけた。
『由宇…………。』
あの時の優しく僕の名を呼んだあの人の顔と声が浮かんで…
…………僕は持っていた鞄をポトリと落とした。
……あの日。
『……あの、貴方の名前は?』
そう言った僕に、あの人は泣きそうな顔をした。
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