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回りをぐるりと山に取り囲まれ町から離れた場所にある、広さのわりには過疎化が加速する、人口約千人余りのある村の中――― 日も暮れかけ薄暗い道をライトを点けた一台の白い軽四トラックが山から出てきた。 荷台には分厚い緑のシートが掛けられ、四方と所々についている幅広の黒いゴムが荷台にガッチリと留められ、ピシッと凹凸なく張り付くように張られている。 「かっちゃん、明日の集まりはまた世話かけるなあ」 村の中心部にある、村で唯一の信号で止まった“かっちゃん”こと桑田嘉寿男に、対向車線で停止した同じような車から中年の男が窓を開けて声をかけた。 「あ…あ、いえ…大丈夫…」 嘉寿男は窓を開けて答える。 元来口数が少なく、他人と関わることが苦手で人付き合いが不器用な部分もあり、口を開いても言葉足らずで滑舌がいいとは言えない。 しかし昔から彼を知る者は、本来の穏やかで優しい面や、時折はにかむような控えめな笑顔を知っており、なんら気にしているようではなかった。 「青年団の集まりは、いつも年少のモンがまかないをして料理せんといかんからなあ。かっちゃんの後がちょっとの間おらんし、しばらく世話掛けるけど頼むわ」 コクッと頷いた嘉寿男に 「じゃあ俺はホームセンターで、紙皿やら紙コップ買ってくるわ。深い方がいいんだよな?」 またコクッと頷いた嘉寿男を見て 「くう~!かっちゃんの番になってからは豪勢で楽しみじゃ」 『気つけて帰れよ』と手を挙げてからクラクションを一回鳴らし、男は鼻唄まじりで進行方向へと走って行った。 「ふう…」 長い息を一つ吐き、突然の会話で驚いた気持ちを落ち着かせると、嘉寿男は再び村の一番端の垣内にある一番奥の自分の家に向かって走り出した。
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