~・ボタン・~

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次の日―――― 「いやあ、やっぱし、かっちゃんのボタン鍋は最高だわ」 「出汁と味噌の具合が絶妙で、シシ肉の旨味と合体してまあ…この汁だけでも飲めそうだわ」 酒が入り真っ赤な顔で、陽気になったせいか声まで大きくなりながら、男達は口々に嘉寿男を褒めあげる。 「叔父さんの正男さんにシシ肉また頼んでくれねえか?」 「うん…わ…かった」 「正男さん…まだ自分でやってんのか?」 「うん…で、でも…疲れ…から、俺が手伝ってる」 目を合わせられず左右に動かし次の肉を鍋に入れながら、嘉寿男は小さな声で答える。 「家継ぐために整備士の学校に行ってた時だっけ?そん時に小料理屋のバイトで料理おぼえたんだよな?」 誰かの言葉に黙ってコクッと頷く。 「資格はあるし、料理はできるし、後は可愛い嫁さんだな、オイっ」 「かっちゃんより歳上の独身が先だって。しっかり探せよ」 遠慮のない年配の男達に、独身の男達は『こんな村じゃ出会いがねえんだよ』とボヤく。 「そういやタケちゃん、役場にイイコいねえか?コイツらに紹介してやれ」 「無理だ~。タケちゃんくらいイイ男じゃねえからな。ちったあ身に構えよ」 口さがない男達の無遠慮に思えるような言葉も、昔ながらの付き合いだから笑って済ませる。 そんな盛り上がる中でも、嘉寿男はただ黙って鍋を少しかき回していた。
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