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「おっちゃん…オークション…あった」
少したって一区切りついたのか、汚れたツナギのまま嘉寿男は家の中に入ってきた。
「ほうか、ほんだら早く用意しろ。んで借りてた車、ちょっと直してくれ」
「アニキ、また事故…」
顔を曇らせる弟に
「調子が悪いだけだ。オイッ…嘉寿男」
顎をしゃくり、正男は嘉寿男と外へと出た。
「ちょっと見てくれ」
外へ出て車の前に回ると、嘉寿男は息を飲んだ。
「おっちゃ…血…か?まさか…ひき逃げ…」
凹んだフロント部分に、明らかに血とわかるシミがついている。
「人なんてはねるか」
「じゃ…」
「こう言う猟の方法もあるんだ」
「猟…って…轢き殺す…」
嘉寿男は想像から脂汗がにじみ出てきた。
「あいつらはそんくらいじゃ大概くたばらん。立てねえようにして…“ズドンッ”じゃ。がはははっ…」
正男の方は銃を構える真似をし、声とともに笑いながら手を広げた。
「フロントバンパーやらもっと強度を上げてくれ」
「そんな…ことに…できな…」
「ごちゃごちゃ言ってねえでさっさとしろ。こっちだって新しい車もまだなら、てめえのでやんなきゃ仕事になんねえんだ」
首を振る嘉寿男に正男は大きく腕を振り上げた為、嘉寿男は腕に隠れるように身を屈めた。
昔から何かにつけて家に来ては酒が入ると暴れ、気に入らないと暴力に走るこの叔父が嘉寿男には怖かった。
怖い気持ちはいまだに消えることなく、体が先に動いてしまう。
「他の仕事なんてやらねえで、まずこっからかかれ。ええか?もたもたやってっと…」
「わか…た」
満足したのか、正男は助手席のドアを開け『頼まれてたのだ』と新聞にくるまった塊を渡した。
「これ…て」
「“コレ”で獲ったやつだ。じゃあな」
正男はニヤリと唇の片側を上げ車を指差すと、勝手に嘉寿男の家の軽トラックに乗り込み帰ってしまった。
後に残された嘉寿男はこみあげる生唾と嘔吐感にふらつく頭を振り、スクーターに乗ると、すぐに手放したくてたまらない塊を届けに猛スピードで走った。
それから二回ほど修理を頼まれたが、狩猟期間が過ぎ正男からは連絡がない。
その間、村で不幸事が重なり、運よく集まりも自粛の方向で切り抜けられた。
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