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「かっちゃん、おはよう」 新緑が目に飛び込み始めた頃、出掛けようと家を出ると、ちょうど健もシャッターを開けている時だった。 「健兄ちゃん、おはよ…どっか…」 「町が主催する“春の品評会”に牡丹を見に行くんだ。親父が出品したからさ。今付き合ってる彼女と一緒に」 「へ…」 ガツンと頭を殴られた気がした。 「保育園の給食の調理師の子なんだ。あ、かっちゃんと高校で同じクラスだったって言ってたぞ。名前は桐山佐都。覚えてない?」 「きりやま…さと…」 覚えがあった。 いつも冷たくバカにしたような言葉を平気で投げ掛け、蔑んだ目で自分を見ていた女子達の中に…いた。 「またさ、そのうち家に連れてくるから。久し振りだろ?顔見せに連れていくよ」 動揺している嘉寿男に気づくことなく、健は『いってくるわ』と手を振り車で出かけていった。 「健兄ちゃんに彼女……しかも…あの女…」 健に彼女が出来たショックが胸を締め付ける。 相手が二度と会いたくもない人間だと言うことが、追い打ちをかける。 それでも、苦しいままに日は流れ、そんな嘉寿男の胸の内がわからない健は、ある日彼女である佐都を連れて突然やってきた。 「久し振りね。健くんに聞いてビックリしちゃった。同窓会にも来ないんだもん。会いたかったよ」 白々しいセリフと、女優顔負けの笑顔で愛想をふりまく彼女に、嘉寿男は呼吸も出来ず息が詰まりそうになる。 「ねえ、聞いた?同じクラスだった…」 明るい声で“共通の話題”であるかつての級友の話などされても、上っ面のみの薄っぺらさしか感じない。 ましてや、どの口がモノを言ってるのか? その口から自分に対して吐かれた言葉に、かつてどれだけ苦しんだか… 「ごめんね…つい懐かしいから私ばかり嬉しくて喋って。それに、今は仕事の途中だし…私がお邪魔して迷惑かけちゃったみたいだね」 さらに追い打ちをかけるように眉をハの字に泣きそうな顔を健に見せる。 「かっちゃん、悪かったな。邪魔して!」 健はどことなくムッと怒ったような顔で淡々と嘉寿男にそう言うと、『いいよ、うちに行こう』と佐都の手をひいた。 勝った顔で振り返り、蔑んだ目で嘉寿男を見る佐都に気づかずに…
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