~・ボタン・~

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その日以来、何度か村の集まりがあったが、健が嘉寿男と距離をおいたまま月日は流れ、また狩猟解禁の時期となった。 今年は例年以上に農作物への被害も多いため、すでに狩猟期間を昨年より延長しそうな気配まで見せていた。 村祭りも近づき、祭り後の集まりのまかないを悩む嘉寿男のもとに『車の調子を見に来い』と、山の中にある正男の倉庫に呼び出しの電話があった。 「山ん中で止まっちまうようなことになったら困るからな!ちゃんと見ておけよ」 渋々やって来た嘉寿男だが、正男は相変わらず威圧的な態度でアテの極太サラミを丸かじりしながら酒を飲んでいた。 「いっぺん、一緒に猟に行くか?」 「や…行きた…く…ない…」 俯き首を振る嘉寿男を鼻でせせら笑い 「おまえみたいなケツの穴のちっせえ奴、生きたシシ前にしたら、チビって腰ぬかしちまうだろうな…がははははっ」 笑いながらまた酒の入った一升瓶を傾け、湯呑みに豪快に注いだ。 「この前、おまえんとこの隣の健に会ったわ」 「え…健兄ちゃん?」 『ああ…』と頷き、湯呑みに口を付けた。 「彼女と車ん中で…くくくっ。誰もいねえとタカくくって、わざわざ山道入ってヤルことヤッてっから」 嘉寿男の体からすぅーっと何かが抜けていく感じがした。 「ライト照らしてやったら大慌てでよう。バッカじゃねえのかってな。ヤルならケチ臭いことしねえで、場所考えてしろって窓開けて笑ってやったわ」 「健兄ちゃんは…バカじゃない」 「あ?バカだろ?あんなケツの軽そうな女選んでよう。見る目もねえバカ野郎だ」 「健兄ちゃんはバカじゃない!!」 嘉寿男はそばにあった鉈を握り大きく振り下ろした。 何度も何度も何度も何度も… 「はあ…はあはあ…」 帰り血を浴びる中、嘉寿男は微笑みをたたえ呟いた。 「そうか…最初から…こうすればよかったのか…」
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