242人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
──いかにも、なんて事態ははなから避けたいと思っていた。
陽香に、つまらない手垢だけはつけたくない。それが、俺のものだとしても。
よくある、女の子への幻想とか思い込みの類なんかじゃない。
恋、なんてものを心の中に飼い始めると、どうしたって胸が汚れる。
それは、相手がいる以上どうしようもないことだ。
恋愛の、甘くておいしいところだけを陽香の口に入れたいわけじゃない。
ちょっと痛くて苦くて、そういうものも充分に味わってくれてかまわないと思う。
俺を想ってそういうものが胸に広がるなら、いくらでも、って。
ちょっと矛盾に近いところで考えながら、俺が望んでいることは、相手が存在するからこそ出てくるちょっとした嘘とか、欺瞞とか、狡猾とか。
そんなものが陽香の胸の中に芽吹く前に、根元からぜんぶ引っこ抜いてやりたいんだ。
後悔なんて何ひとつないけど、俺は俺なりに、過去の恋愛で色々懲りているのかも知れなかった。
さなえさん、流華さん、愛美さん。俺と彼女達との間には、どこかしら蜜という名の毒があった。お互い見つめ合っているようで、それがちっともかなわない不毛な恋愛は──もう、こりごりなんだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!