それは君のことだと、何度でも。

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   ──いかにも、なんて事態ははなから避けたいと思っていた。  陽香に、つまらない手垢だけはつけたくない。それが、俺のものだとしても。  よくある、女の子への幻想とか思い込みの類なんかじゃない。  恋、なんてものを心の中に飼い始めると、どうしたって胸が汚れる。  それは、相手がいる以上どうしようもないことだ。  恋愛の、甘くておいしいところだけを陽香の口に入れたいわけじゃない。  ちょっと痛くて苦くて、そういうものも充分に味わってくれてかまわないと思う。  俺を想ってそういうものが胸に広がるなら、いくらでも、って。  ちょっと矛盾に近いところで考えながら、俺が望んでいることは、相手が存在するからこそ出てくるちょっとした嘘とか、欺瞞とか、狡猾とか。  そんなものが陽香の胸の中に芽吹く前に、根元からぜんぶ引っこ抜いてやりたいんだ。  後悔なんて何ひとつないけど、俺は俺なりに、過去の恋愛で色々懲りているのかも知れなかった。  さなえさん、流華さん、愛美さん。俺と彼女達との間には、どこかしら蜜という名の毒があった。お互い見つめ合っているようで、それがちっともかなわない不毛な恋愛は──もう、こりごりなんだ。 .
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