242人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「陽香……」
仁志くんは真剣な顔をして、あてがってくる。
今からすることの最後の宣告だった。
「ひ、仁志くん……」
不安と、多めの恐怖と、少しの期待が胸を過ぎる。
やがて、定めたかのように仁志くんの表情が切なげなものになった。
「……好きだよ。好きだ、陽香……」
今まで聴いたどの声よりも甘い声で、信じられないようなことをささやかれて、一気に恐怖を剥ぎ取られる。
ああ、どうしよう。
どうにでも、して欲しい。
仁志くんのいいように、好きなように。
仁志くんが両手をついて、一ヶ所にだけ体重をかけてくるのが判った。
「……仁志くん……っ」
「力抜いて」
ゆっくり息を吐いて……と言われて、その通りにする。
ものすごい拡張感と異物感で、頭の中が混乱する。
「痛い?」
「わ、判んない……」
「……そう。よかった」
ゆっくりと。本当に、ゆっくりと。
眉間に皴を寄せる仁志くんの表情で、簡単なことをしているのではないと判る。
あたしが息継ぎをする瞬間、仁志くんが一旦止まる。
また、息を吐き出すとぐぐ……と揺するように押し付けられて、拡げられているのが判る。
けど、あたしの混乱はそれだけじゃなくって。
.
最初のコメントを投稿しよう!