それは君のことだと、何度でも。

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   内心動揺でいっぱいなのに、平静を装ってそう訊ねる自分を滑稽に感じながら、ふと気付いた。  俺がこうして呼吸をするように虚勢を張ってしまうから、陽香にはそのままでいて欲しいんだな……と。  何というか、これはもう男の身体に生まれた瞬間から、鍛えられてしまう思考なんだろうけど。  少しでも大きく、かっこよく見せたい、っていう。  そうしたからって何なの、というのは虚勢を張っている自分自身が一番よく判っているんだけど。  好きな女の子の前で、一番頑張りたくなるんだよ。  そうして頑張ってる一方で──本当はそんな褒められたものじゃない自分を知ってもらいたい願望も、どこかにあって。  それが見透かされたい、という思いとイコールにならないから、男は厄介なんだ。 「うん、大丈夫。あの、それより仁志くんも早く、温まってきて……」 「そうする」  陽香の洗い立ての濡れ髪をスルリ、と撫でて。音を立てないように深呼吸をしながら、バスルームに向かう。  暖まってきた彼女に冷たい身体で触れるのは躊躇われた。  どうせすぐ熱くなってしまうんだから、どっちでもいいような気もするけど。  ……やっぱり、一応綺麗にしてこよう。 .
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