それは君のことだと、何度でも。

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   どこから出てきたのか判らない乙女な思考回路が、俺の理性を必死に繋ぎ止めていた。  正直びしょ濡れのまま、汗も雨もそのほかのものもぜんぶグッチャグチャに入り混じって、それだけに没頭してみたい気持ちも、あるにはあるんだけど。  陽香にそれをしようとは思わない。彼女の貴重な初めてを、そんなオスとメスの露骨なまぐわいにするわけにはいかない。  身体を温めてバスルームから出ると、甘い紅茶の入ったグラスを抱きしめるようにして、陽香がぺたりと座っている。  その頬がまだほんのり赤いのを見て、彼女が死ぬほどこの状況を意識しているのが判った。 「あ。……ごめんなさい、勝手に乾燥機、借りちゃった」  俺の顔を直視することなく、陽香は俯きながらそう言った。  乾燥機を見ると、静かな音を立てながらくるくると回っている。 「うん」  陽香の緊張がこちらにまで伝染してしまいそうで、俺はゴホン……と咳払いをした。  濡れた髪をタオルで拭きながら、もう一度窓辺まで歩いていく。  真っ黒な雨雲はどっしりと空にのしかかっていて、もうしばらくは止みそうになかった。 「陽香」 「は、はい」 「嫌だったら、今のうちに言って」  思ってもみないことを口にしてしまった。  やっぱりまだ怖いからだめです、なんて言われたら絶対落ち込む自信があるんだけど。 .
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