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ぷくん、と膨れた陽香の子どもみたいな頬をつん、とつついた。
「ほら、教えて」
「……」
「言わないと、ここで始めちゃうかもよ……」
わざと、声をワントーン低くする。陽香がこのトーンの俺の声に弱いことなんて、もうとっくに知っているから。
すると、陽香の頬がかあっと赤くなる。
「……仁志くんて、ヘンタイだよね」
「今頃気付いたの」
「……」
陽香に言葉尻を捕まえられないよう、戯れの如くすいすいと逃げる。
先回りする、という芸当を知らない陽香は、むう……と口唇を結んだ。
艶やかなその口唇は躊躇いがちにだけれど、またすぐに開く。
なぜか緊張しているのか、陽香の口唇が一瞬だけわなわな、と震えた。
「……ほ、欲しいって言われて、ぞくって、しちゃった……」
……やっぱり、そんなところか。
思った通りの反応がやけに嬉しい。
普通なら“思った通り”というのは予定調和を意味していて、つまらないものってことになってしまうんだけど。
陽香に一段階ずつおとなの階段を昇るよう仕向けている身としては、次にこういうことを判ってくれたらいいな……という反応を本当にそのままして貰えると、やたら達成感に満たされる。
惚れて、気持ちが入っているからこそ、陽香の勘の良さが嬉しい。
恋っていうわけの判らない乱暴な感情に苛まれているとき、女の子は好きな男に「やりたい」って迫られたら、たぶん嬉しがるものだとは思うけど。
俺達の歳くらいならそれでいいし、当たり前の方法なんだけど。
回りくどい比喩の中に、どうしようもなくストレートな想いを込めること。
言葉遊びは、限られた文字数の中に恋心や恨み言をしこたま込めてきた日本人のお家芸。
そんなものに比べたら、俺と陽香のやりとりなんて本当に子どもの戯れのようなものかも知れないけど。
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