君だからそれをあげたい。

3/20
279人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
   夏の気配たっぷりの真っすぐな陽射しをうまく回避しているこのカフェテラス。  背もたれのしっかりしている椅子のせいで、そこに凭れて居眠りをする学生は少なくない。  隣で同じように椅子に身体を預けて気持ちよさそうに深呼吸を繰り返していた斉木は、ふと首を動かして俺の顔を見た。 「なるなる。なんだ、お前にもあるの? そういうこと」 「……あるよ。俺だって人間だし」  それは判ってるけど……とへらっと肩を竦める斉木は、唸りながら高く青い空を見上げる。 「何つうか、そうじゃなくて。仁志ってさ、ひとつひとつ潰していくじゃん」 「は?」 「不安要素とか、マイナスの可能性をさ。だからって石橋を叩いて渡る、みたいな慎重さとはまた違って。障害になりそうなものやことが最初から仁志には普通にぜんぶ見えてて、“迂闊だなあ”とかぼやきながら軽快に踏み潰して均して行くんだよ。手が足りないときは俺なんかを上手に使ったりしてさ。結果、自分もみんなも通りやすい、みたいな」  日陰になっているここから見上げる太陽の光は、少しやわらかく感じる。  斉木の言っていることを一通り咀嚼してから、俺は座り直して自分の膝に手をついた。 「そこまで、器用じゃないよ。すべてが見えてるわけでも、判ってるわけでもないし」 「いやあ、お前にとってそれが普通だからだろ。色んな可能性どころか、こうした結果どうなるかな、っていう予想すら苦手な俺からしたら、ときどき神かと思うよ」 「……居心地悪くなるようなこと、言うなよ。返事に困る」 「そうそ。何でもできるくせに、自信もちゃんとそれなりにあるくせに、妙に謙虚だったりね。ホント、見習うところの多い自慢のダチなの」 「……話、元に戻せよ」  にひひ、と笑いながら斉木も身体を起こした。  飲みかけていたアイスティーに口をつける。氷がすっかり溶けてぬるくなり始めていたそれを、一気に飲み干した。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!