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『そうそう。額田先生の言ってた通り、代教の先生が来たんだよ』
テストが始まったばかりだというのに、陽香はいつも通り俺に電話をしてきた。
俺と電話してる暇があったらテスト勉強の強化をしなさい、と言ってやりたかったけど──。
冷たくそういう大人の対応ができる程、俺は冷静ではいられないらしい。
テスト週間なのに毎晩電話をするのもどうかと、今夜は避けようと思っていたのに。
一応年上である俺の葛藤など念頭にないのか、陽香は普通だ。
……普段からちゃんと勉強しているのは知ってるし、冷たくすることもないか……。
どんどん軟弱になっていく自分の思考を、どうにかして叱りつけられないだろうか。
今はこうして嬉しくて甘い気分に浸れるけど、切ったあと、めちゃくちゃ寂しくなることが判っているのに。
そういうことが判っていても、俺は折れざるを得ないのだった。
ひょっとして、恋って女の子の為にあるのかな……と、ふと思った。
被害妄想のつもりはないけど、恋愛中っていうのはけっこう大変だ。楽しくて仕方ないんだけど──一緒にいる時間、男がどれだけ神経を遣っているか。
女の子には、きっと一生伝わらない気がする。
可愛く拗ねたふりをしているくらいならまだじゃれていれば済むんだけど、本気で拗ねたときの女の子程、やっかいなものはないと思うし。
陽香はまだ俺に慣れてないから従順で素直で、されるがままだけど。
そのうちいつか、とんでもないわがままを言い出すに決まってるんだ。
でも、そんなふうにやさぐれた思考回路で武装してみても、陽香のわがままが楽しみで仕方ない自分もいたりするのは、どうしたものだろう。
陽香に拗ねられて、わがままをふっかけられて、くたくたになるまで振り回されて──。
──それってとんでもない幸せのことだろう……と思う俺は、どこかの大事なネジが外れている気がする。
携帯片手にそんな妄想をひとしきりして、そのまま溶けてなくなってしまいたくなった。
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