それは悪戯が過ぎる。

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  「……卒業式の日、一緒にカラオケ、行ったじゃない……?」 「うん」 「あのとき、仁志くん、1曲だけ歌ってて……」 「ああ……基本的に、得意じゃないから……」  何となく恥ずかしくなって、煙草の箱を手に取る。  はたと気付いて、一瞬だけ箱を凝視した。……銘柄、変えようかな。  俺にしか判らない気まずさがその箱から漂っていた。  煙草の銘柄は別に問題じゃないんだけど、これにした理由を今さらながらに思い出したからだ。  流華さんが出てくるまですっかり忘れてたけど、箱を見る度またそんなことを思い出すのは嫌だった。  目の前でひっそり気まずさと罪悪感を噛みしめて口の中が苦くなっている俺には気付かずに、陽香はフローリングを見つめながらもそもそしている。 「……仁志くん、“サボテン Sonority”って、桐谷先生のこと……?」 「え?」  次の煙草をどうしようか、と行き着けのコンビニのレジの奥に並んでる棚の並びを思い描いていたのだが、陽香の質問でそれがぱちんと弾けた。 「“サボテン”って、ポルノの?」 「え、そりゃそうだよ……じ、自分で歌ってたくせに……!」  とりあえず気まずさは部屋の隅にでも転がしておくことにして、俺は1本咥えて火を点けながら陽香をちゃんと見た。  卒業式の日……? .
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