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言いながら、想像しただけなのに涙が浮かんできた。
あたしを見ながら、仁志くんは眉尻を下げて笑い出す。
「……31人目か、ごめん。面白い。その発想はなかった」
「笑わないでっ」
「ごめんって……マスカラ、落ちるよ。こんなところで、泣かないの」
人差し指で、仁志くんは目尻に滲んだあたしの涙を、拡げてしまわないようにそっと拭った。
「桐谷先生に、何言われたの」
色々ボロが出すぎて、もう繕えそうにない。
それを悟ったあたしは、諦めて俯いた。
「……桐谷先生が、仁志くんの恋人10人目だ、って」
「馬鹿だな、からかわれたんだよ。そんなにいるわけないだろ」
「じゃあ、あたし、何人目、なの?」
「もしかして、それ気にしてたの」
ぱちぱち、と音がしそうな瞬きをして、仁志くんはあたしを見下ろす。
薄い闇が広がる中でも、彼の表情だけは判る。
あたしが黙って頷くと、仁志くんは大きな溜め息をついた。
「……まあ、陽香は気になるのかもね」
「なあに、その言い方……」
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