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「いや、陽香にも元彼がもしいたら……気にしないと思うよ、俺の元彼女とか」
「気になるよ、そんなの関係ない」
「言うのはかまわないけど、嫌な気分になったりしないか不安だな……」
「しない。絶対、しない」
仁志くんは、ふふ、と笑った。たぶんあたしの“絶対”という言葉のせいだろう。
それが儚い言葉だってことはあたしにだって判るんだけど、それでも言いたいときがある。
仁志くんはそんなあたしの気持ちを汲んでくれたかのように、ふっと微笑んだ。
「陽香の前に付き合った人は、3人。14歳のときと、16歳のときと、17歳のとき。それから1年くらい、ひとりだった。陽香と会うまでは、ね」
淀みなく、すらっと出てきた仁志くんの言葉。
「……ほんとに、それだけ?」
「うん。どんな相手かまで、聞きたい?」
仁志くんのその問いには、慌ててかぶりを振った。
「いらない、です」
「うん。よかった。俺も、あえて詳細を思い出すのはごめんだし」
仁志くんにしてはぶっきらぼうにそう言うけど、声は優しい。
じっと見つめられる瞳と、沈黙。
その意味が判らなくてわずかに首を傾げると、仁志くんはそばの電柱にあたしを押し付けるようにして、周囲から隠す。
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