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仁志くんにごはんを奢ってもらったその帰り、すっかり真夏と呼べる季節になっているせいか、お祭りがあるというわけでもないのにさっきはなかった小さな露店が駅前にできていた。
椅子に腰を下ろしうちわでぱたぱたと襟足を扇いでいる派手めのお姉さんと、はたと目が合う。
お姉さんの隣には、木製の奥行きのない棚が置かれていた。
5段くらいに仕分けられているその棚の中に吊られているのは、色んな風鈴。
縦は5段だけど、あたしは思わず横の並びに目を奪われた。
たくさんの風鈴がわずかな風に揺られて、鈴の転がるような涼やかな音を輪唱のように奏でながら、夜道に響いている。
お姉さんは道行く人がお客さんかそうでないかを見分けられるのか、あたしにふっと微笑みを向けると、話しかけてくるでもなく相変わらずうちわを動かしていた。
「……」
立ち止まって動かないあたしに気付いて、数歩先を歩いていた仁志くんが戻ってくる。
「どうしたの」
黙っているあたしの視線を辿って、仁志くんも思わず立ち止まった。
そして彼は、少し浮かされたようにぽつりと言う。
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