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だけど、あたしが風鈴を飾って欲しい、なんてお願いしたからここに来た。
仁志くんにしてみれば、もう一度あたしを送らないといけない。
よく考えたら二度手間で、電車の中でようやくそれに気付いたあたしは仁志くんに何度も謝った。
だって、カフェバーのバイト初日だったから、疲れてるはずなのに……。
あたしに対しての手間や行動を惜しまない仁志くんを見て、さっき不安を思い切りぶつけたことが、今になって急に恥ずかしくなってきた。
「……さて、陽香の門限までもう少しだね」
「? う、うん」
仁志くんは窓枠に手をかけて、そのままするすると座り込む。
そしてあたしを見ると、表情を変えずに手招きをした。
「陽香、こっち」
「え」
戸惑いながら立ち上がって彼のそばまで歩いていくと、仁志くんはあたしの手を取り、自分の足の間へ座るよう示した。
「あ、あの……」
「ちょっとだけ、2人でぼーっとしてよう。ここなら、涼しいし」
仁志くんの意図がよく判らないまま、あたしは彼の立て膝の間にそっと腰を下ろした。
そのまま仁志くんはあたしを閉じ込めるように前で手を組む。
すると、後ろからすり……と彼の顔が寄せられて、あたしは一瞬身を竦める。
うなじから耳元に、仁志くんの口唇がかすめていったから。
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