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「……時間、あんまりないから」
含まれた言葉の意味に、かあっと全身の血が滾る。
……どうしよう。
今まで読んだ本の中には、こういうしっとりした場面もたくさんあって。
そこには少女漫画にはない言葉や状況の暗喩もたくさん並べられているから、漫画以上のものを読まないような同い年の女の子達よりあたしはたぶん色々、判る方だとは思うんだけど。
……それでも、こんなこと知らなかったよ。
同じ暗喩でも、想像だけのことと実際経験したこととではこんなに違うんだ、ってこと。
記憶より、想いより先に身体がその記憶を辿って、想いと記憶に逆流してくる、この感じ。
心と身体はひとつなんだ、って、こういう感じ……?
そう考えていたらたまらなくひりひりした気持ちになって、せめて……と仁志くんにそっともたれる。
背中ごしに伝わる、仁志くんの体温。
それを感じているだけで、一瞬前のひりひりした気持ちが和らいだ。
でも。
やっぱりそれじゃ、足りない。
ドキドキに耐えながら、仁志くんが顔を寄せてくれる方に振り向くと、待ち構えていたかのように彼の口唇があたしのそれを塞いだ。
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