その眩暈さえ心地いい。

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   大輔さんは完全に面白がって、携帯を出した俺の手元を覗き込む。  その視線から逃れるようにしながら、俺は頷いた。 「帰ったら連絡する、って言ってあるんです。ほったらかしたら心配させてしまうんで」 「うんうん、そうだな。先に連絡しとけ」  やたら朗らかな様子の大輔さんはひらひらと手を振ると、覗き込むのをやめた。  その向こうから、恨めしそうな陣さんの視線が刺さる。 「……もう女いるの」 「もうって……愛美さんが結婚してから、何ヶ月経ってるんですか」 「ああ、若いってフットワーク軽いよな、腹立つ……」  ……若いって、2学年くらいしか違わないはずだけど。  陣さんの言葉を半分上の空で聞きながら、陽香に“友達と会ったから、また連絡する”とだけメールした。  携帯を閉じ、改めて陣さんを見ると、うなだれている。  ちら、と大輔さんを見ると、渋い顔をしていた。 「こいつね、翠川諦めるって決めたくせに、まだズルズルしてんの。バカ丸出し」 「別に、好きでバカ丸出してるわけじゃないっつーの!」 「……お気の毒に」  まだ諦められてないのか。そりゃあ、俺の顔を見ただけで腹も立つだろう。  完全に他人事の俺は、笑うしかなかった。 .
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