その眩暈さえ心地いい。

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   でも、同じ女の人に入れ上げた経験のある身としては、可哀相だな、とも思う。  憐れみとか同情とか、そういうんじゃないけど。  何というか、この陣さんは俺よりよっぽど近くで見ているはずだ。  英雄くんのものになった愛美さんのことを。  すっかり英雄くんのもので、すっかりお母さん、という感じの愛美さんを見てなお諦めることができないでいる、というのは可哀相としか言いようがない。  愛美さんを見て、以前のように特別に感じなかった俺の清涼感を分けてあげたいくらいだ。  減ったら困るから、あげられるのだとしても本当にはあげないけど。 「そういえば、そろそろ産まれたんじゃないですか。愛美さんのところ……」 「ああ、そう。もうとっくに予定日過ぎてるんだけど、初産だからって遅れてるみたい」 「そうですか」  無事に、健康な赤ちゃんを産んでくれればいいな、と。普通にそう思った自分は、やっぱり幸せ者だと思った。 「陣さん」 「うん……?」 「やっぱり、早く誰か見つけた方がいいですよ。俺に言われても、嫌味に聞こえるでしょうけど」  俺がそう言うと、陣さんはとても複雑な顔をして、困ったように笑った。  そんなの、俺が一番よく判ってるよ、って顔で。 .
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