その眩暈さえ心地いい。

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   愛美さんは去年、“あなたでなく陣を利用した”という現実を明かしてくれることによって、忘れるのに最適な“幻滅”という材料を俺にちゃんとくれた。  俺も馬鹿正直にそれを利用して、愛美さんを忘れることができたから。  それって今考えれば、すぐ揺らぐ彼女なりの俺への優しさだったんだと思う。  だって、本当にそれでちゃんと忘れさせてくれたんだから。  ……けど、愛美さんは陣さんにそれをしてやらないんだな、と思ったら。  陣さんにも相当痛いところがあったんだろうな、と判ってしまった。  愛美さんの「陣は自力で忘れたら?」という笑い声が聞こえるようだ。  陣さんの複雑な笑顔の理由がなんとなく判って、俺はやっぱり可哀相だな、と思った。  携帯を交換しないか、という大輔さんの言葉を丁重に拒否してきてよかった。  愛美さんの話は、額田先生から風の便りでもう充分だし。  さっきのコンビニにもう一度寄って、今までのと違う煙草なら何でもいい、と適当に買って帰った。  そうして手の中にラッキーストライクがあるのは、さっき陣さんが手にしていたからかも知れない。 .
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